リリアが高等部進学し、1週間の時が経った頃。
「リリ、高校生には慣れた?」
「うん! このブレザーも最初は重たいと思ったけど色々装備隠せてちょうどいいの」
「……やめるという選択肢、無いんだ」
ある授業の合間の休み時間に3人で集まって話をしていた。
1人はリリアの髪の毛を手入れする少女、そしてその目の前で目を合わさず本を読む青年。
「レイ、そんな事ウチが出来ると思ってるの?」
「……胸を張るな、胸を」
その青年レイは呆れたような口振りで呟く。そして顔を少し赤くしながらリリアに進言をする。
「あんまり兄さんの胃を刺激しないでほしいんだ」
「センセの?うーん……考えとく!」
レイは義理のだがフウガの弟であり、担当教師であった。なので心配しているのであろう。しかしその心配も知ったことかと言いたいがごとく考えとくという一言で片づけられてしまった。
そしてリリアは次の話題へと移していく。
「あ、そういえばウチ最近気になったことがあるの」
「あらどうしたの?リリ」
「最近よくウチを見に来る人が来るのは何で?」
リリアは一瞬教室外を見る。物珍しそうな目をしたギャラリーがリリアを見ている。教室外だけではない。教室内の生徒もチラチラとリリアの事を見ているのだ。
「あぁリリアは知らんのか」
レイは今まで読んでいた本を閉じる。かけているメガネをくいっと上げながら言葉を続けようとする。しかしその言葉は女性の声によってかき消される。
「それは私が説明しよう!」
「新聞部……」
リンカはリリアの髪の手入れの手を止め乱入してきた女性を睨み付ける。
「おやぁ自称騎士様は怖い怖い。うふふっ」
女性はかけていたサングラスを外し、リリアに一枚の紙きれを渡す。
「名探偵兼新聞部部長、サナエ・キリュウ?」
「ええ。サナって呼んでくれていいのよリリ!」
にこりと笑いリリアの手を握る。その2人をリンは押しのけ、
「馴れ馴れしくリリに近づかないでって言ったでしょ?」
「いやあリリに会えるのは嬉しいねえ」
やれやれと大げさに肩を竦めるような素振りを見せながらサナエはそっぽを向く。リンはその素振りに今にも掴みかかりそうだ。リリアはそんなリンに首をかしげながら質問を振る。
「リンはサナさんと友達なのー?」
「楽しい友人の1人ではあるね」
「こんな蝙蝠と友達ではないわよ」
リンとサナは同時に答える。
「あなたには聞いてないわよ」
「……っと、授業まで近いしさっさと本題に入らせてもらおうかな」
紅色の目をキュッと細め、リリアに笑いかける。
そして紙の塊、新聞をリリアに見せる。
「あなたの入学式の時の花火大会を撮影して新聞にした。それがあなたが注目されている理由。そして私が今回あなたに会いに来た理由は取材の約束をするためよ!」
ビシッと指をさす。リリアは顔を赤くしながら。
「しゅ、取材!?何するの!?」
「んふふー。リリはすぐ飛びついてくれるねえ。
まあちょっとしたインタビューを受けてほしいだけよ。謝礼はするわ」
「ダメよリリ。多分ものすごく面倒くさ」
「分かったの!インタビューされてみたい!」
リンの制止する声を無視し、リリアは即答する。リンはため息をついている。
「じゃあ授業が終わったらこの地図の所……新聞部の部室ね。1人で来てくれたら嬉しいけど……まあ友人たちと来てもいいわ、じゃっ!」
慌てたような様子を見せながら速足で去っていく。直後チャイムが鳴った。
「……嵐のような、女だった」
この間呆然として喋ることもできなかったレイはボソリと呟いた。
「リリ、本当に行くの?」
リンは不安そうにリリアを見る。授業が終わった後、3人は地図を頼りに部室棟を歩いていた。
「うん!大丈夫だよー悪い人って感じしなかったの!」
「……サナエ・キリュウ。自称名探偵。別名マスコミ。この学園で知らない人間はいないほどの知名度を誇る。彼女の反感を買ったら最後。いつの間にか握られた弱みを新聞で暴露される」
「うーんよく分かんないの」
「誰に言ってるのかしら?」
彼はそれから再び本に目を向けている。
「ここかな?」
「うわあ」
地図に印がついてる場所の近くに到着する。その扉は決して趣味がいいものではない。
『新聞部ヘヨウコソ』
『依頼募集中』
『千客万来』
『バケモノ歓迎』
『部員募集中』
数々の言葉が乱雑に並べ立てられている。耳を澄ますと奥から声が聞こえてきた。
「取材なんて聞いてないですよー!ボク帰る!」
「あら少年、そんなこと言われても数時間前に決めたんだから。あと残ってるほうがお得なのにねえ帰るならいいわよお?」
リリアはその扉を慎重にノックすると扉の奥から声が聞こえてきた。
「いつでも開いてるわよー」
気楽な声が聞こえる。リリアは扉を開ける。すると奥にサナが足を組み座っている。その手前の机では三つ編みの子が突っ伏していた。
「あらリリ、来てくれたのね!嬉しいわぁ」
「うん!えっと……そこの子は……」
「あーそこのは気にしないで。取材疲れよ」
「うあーアンタが悪いんでしょー……ってひゃぁ!?」
その突っ伏していた少女は顔を上げ、部室に来た3人を嫌そうな顔で見渡す。その瞬間顔を赤くして飛び上がりサナエを見る。。
「あ、え、ん!? れ、れれ、れいさ……」
「あら起きたの?ほらこれから取材って言ってたでしょ?取材対象のリリア・サリスちゃんとリン・アゲート、レイ・ザイン。
お茶でも準備してきて」
「うえええ!? りょ、了解しました!」
あわただしい声を出し、部屋の奥に消える。
「あぁアイツは少n、じゃなかったルゥ。中等部の子よ。まあ新入りで助手よ」
「……あの子が?」
リンはサナエを睨み付けている。
「誤解しないでちょうだい。両者の合意の上の入部。担当からも許可をもらってるわよ」
にっこりと笑う。
「さて、お茶が来たらインタビュー始めましょうか。あ、緊張しなくてもいいわ。いつも自分が思っていることを教えて。あぁご友人の方々はウチの助手とゆっくりしてればいいわ」
「ふむ。なるほどねえ。楽しかったわ」
インタビューが始まり1時間後、満足したのか手に持ったメモ帳をパタンと閉じる。
「にゃー。疲れたのー」
「ふふっありがと、リリ。私が隠しておいたルゥ氏が昨日買ってきていたプリンを差し上げよう」
「あー! 見当たらないと思ったら!!」
「冗談よ。返しとくわね。そしてリリにはこちら。助手が昨日並んでも買うことができなかった人気ケーキ屋『イシュトル』の限定ケーキね」
「わーい! それ大好きなケーキなの! 嬉しい!」
「何でボクが並んでたの知ってるんですかあ!!」
リリアはサナエから渡されたケーキを早速食べ始めている。
「美味しい!サナはウチがこれが好きなのを知ってたの?」
「もちろん。取材対象は粗方リサーチするのが私のポリシーよ」
「へー!」
リリアは呑気な声を出してケーキを頬張っている。リンは何か言いたいようだがルゥに止められている。
「ねえサナ!」
「どうしたのリリ?」
「またここに来ていい?」
リリアは満面の笑みを見せている。サナエは一瞬驚いた顔をするがすぐに不敵な笑みを見せる。
「ああ。いつでもいらっしゃい。美味しいお菓子を提供するわ」
「わーい!」
2人は握手を交わす。それを少し離れた3人は見ていた。
「リリ……おのれあの蝙蝠……」
怒りの溜めているのか手が震えている。その手が机の上に軽く置かれる。するとメキメキと不吉な音が響き真っ二つに裂けてしまう。
「あ、あら私つい」
「リンせんぱい!?」
「……もうやだこの女たち」
レイは本で顔を隠す。その姿をルゥはやわらかな青い目で見つめていた。
数日後、リリアの部屋に新聞が送られていた。
「リリア様珍しいですね。新聞を読むなんて」
「違うよシェリー。ウチのインタビューが載ってるの!」
「あらそうなのですか。お珍しい」
金髪のメイド服を着た女性シェリーは表情一つ変えず部屋を後にしていく
「えっと……あったあった」
パラパラとめくり、自分の写真が載っている面を発見した。一面自分のことに割かれているのが少し照れくさく恥ずかしい。
「でも皆が笑顔になってくれるのはいいかも」
リリアは1人呟いた。
『入学式に現れた怪獣への邂逅
これまでも写真を載せ続けていた怪獣リリア・サリスの取材に遂に成功。インタビュー全文掲載!』