第0話:父への手紙

お父さんへ
元気ですか? わたしは元気です。
わたしはなんと高校生になりました。大変だったけどしんきゅうできてよかったの!
そしてこーこーせーになってもイタズラは楽しんでる! そのおかげで新しい友達や、弟子、憧れの人とも出会えたの。
かいじゅーと呼ばれてるけど全然気にしてない! これは褒め言葉!
いっぱいセンセに怒られてるけどイタズラをしてる時が一番わたしだって思える!
センセもほんとはいい人だから。こうやっておとーさんに手紙を渡してくれるもん!
いつかおとーさんに会える日が来るのかなあ。お仕事がんばって!
リリアより

「るーらーらー」
 ここはトラウィス学園。凄く平和な王国の森の奥にこの学び舎は広がっているんだって。寮と校舎を繋ぐ中庭を私は鼻歌を奏でながら歩いていく。
 赤色の髪の上で跳ねた2本の毛を揺らす私、リリアは先日高等部に進級することが出来たばかり。
「りーりちゃーん!」
「りりちゃんー!」
「にゃあ!?」
 後ろから唐突に話しかけられつい飛び上がってしまった。振り向くとニコニコと笑顔を見せる2人がいた。
 白色のナイアに黒色のラト。ラトは髪が長かったりスカート履いたりしてるけど男の人なんだって! 神出鬼没なお兄さんたちなの。
「! ナーちゃんとらっちー!」
 会うとすること。まず2人と手を上げハイタッチ。目が回りそうになるまでグルグルと回っちゃう。
「にゃー!」
 3人の心が一つになる合言葉を一緒に上げながら、最後に腕を振り上げ今日一番の笑顔を見せるポーズ! 今の行為、会った時は毎回やっているの。「にゃーにゃーにゃー」と言いながらひとしきりポーズを取り終わると私たちは満足したように一息つく。
「どうしたの? リリ。今日は学校休みだぞ!」
「にゃー。そーだそーだ休まないのか?」
 直後何事もなかったかのように2人は質問攻めを開始する。今日は授業が休み。まともに授業で話を聞かず眠ってばかりの私にとっては学校は憂鬱の場所ではないのかと口をそろえて言うの。
 胸を張ることではないが一つも間違っていない。でも今回は退屈な授業がある学校に用事がある。一枚の便箋を掲げながら
「これをセンセに届けに行くの!」
 じゃーんと言いながらにぃっと笑う。2人は私の手の中にあるものをきょとんとした顔でじっと見つめている。何か思いついたのか2人同時に声を上げた。
「らぶれた?」
「まさか噂の教師と生徒の禁断らぶってやつ?」
「ちーがーうー! ってあ!!」
 失礼な! 私にだって好きな先輩くらいいる。しかし先生みたいなすぐに怒ってゲンコツを放ったり追いかけてきてお説教したりもするいつもイライラしている人じゃないもん! 口には出さず心の中で叫んだ瞬間私は口に手を当てながら手紙を隠す。先生とある約束していたのを忘れていた。
「このことは皆に内緒。特になーちゃんとらっちには秘密にしておいてってセンセと約束したの忘れてた! じゃあウチは行くね!」
「「えー!」」
 2人は口を尖らせていた。考えなくても分かっている。口が滑ったとはいえ秘密だからと逃げていくのを見て素直に帰って行く人ではないこと位付き合いが短くても感じ取れる。

「で、俺たちも用事があるからーと言われなあなあで付いてきたと」
「えへへごめんセンセ」
 今訪れている教室は私の担当のフウガ先生が適当に暇をつぶす化学研究室。先生はさっきまで廊下で話をしてたナイアとラトが引っ付いてきていたのを見て盛大なため息をついた。
 ため息の元になっているだろう私の横にいる2人はニコニコ笑っている。ナイアとラトは先生とは仲良しだと言っていた。でも先生の方は露骨に迷惑そうな顔をしている。と思ったけど先生が迷惑そうな表情をしているのはいつもの事だった。
 手に持っていた手紙を先生に押し付ける。また軽くため息をつきながら受け取ってくれた。
「おとーさんに渡しといてください! なの」
「へいへい」
 適当な返事をしながらそっぽを向いてしまった。もう用事は終わりだろう、帰りなさい。口には決して出さないがコーヒーのカップを持って校舎の外を見つめる先生が言いたいことは何となくだが分かる。私も適当な挨拶をして部屋から出ていく。
「もうイタズラはやめとけよ」
 最後に教師の叫び声が聞こえた。しかし聞かなかったことにして、今日と更に明日のイタズラを考える。
 教室に何か小物を仕掛けてみようかな? 校庭にモニュメントを置いてしまうのも捨てがたい。考えれば考えるほど笑みがこぼれる。
 父親の代理人に学園へ連れて来られ、イタズラというものに出会ってから毎日が楽しいで満ちている。でも高校生になるまでと違うのは私の周りに駆け寄ってくる『友達』。楽しいが凄く楽しいに変化したのだ。イタズラのことを考えながら今日は新聞部に行こうか、うーん友人とお買い物もいいな。憧れの先輩を探しにお出かけするのも楽しそう。
 退屈な授業がある放課後だけではなく休日でも夜まで不思議だけど楽しい学園内をせわしなく走り回るのだ。

―――そう、これは私の小さい幸せがいっぱいな日常の物語。


最終加筆修正:10/21
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